イントロダクション - シリーズ安全な画像処理
写真や映像の中に、個人情報などの外部へ公開してはならない情報が含まれていた場合には、一般的に情報保護のため、モザイクやぼかし、塗りつぶしなどの処理を行い、その情報が見えないようにします。元の画像 |
塗りつぶし |
モザイク処理 |
ぼかし処理 |
しかし、それらの処理を行うときには、いくつかの注意点があります。
基本的に、人間基準で、見た目的に認識できないかどうかで判断してはいけません。
いまや、コンピュータを使用した解析により、相当数の計算を行える時代です。計算の仕方によっては、元々の情報を復元できてしまう可能性があります。
今回は、ぼかし処理をすることで情報を見えなくする方法について、考えてみます。
他のシリーズはこちら
絶対にやってはならない、情報保護のための、塗りつぶし処理の方法 - シリーズ安全な画像処理
絶対にやってはならない、情報保護のための、モザイク処理の方法 - シリーズ安全な画像処理
情報保護のためのぼかしは安全か?
ぼかしの条件によっては、元の情報を推測することが可能になる場合があります。例えば、白地に黒い文字で書いた文字列をぼかし処理した場合に、
- どのようなぼかしの処理手段(アルゴリズム)を使用しているのか?
- ぼかし対象の文字の形状(フォント、文字サイズ、太さ等)・言語(英語、日本語等)
- どんな文字が記載されている可能性があるか
などの情報がわかれば、コンピュータで大量の計算をさせることにより、元になったであろう情報の推測が行えるケースもあります。
ここでは、ぼやけた画像からぼやける前の画像を推測する技術について、いくつか実例を挙げてみていきます。
超解像
失われた情報を復元する処理は、超解像というキーワードで最近話題になりました。超解像は、身近なところでは、アナログ放送時代の映像を、地上デジタル放送の画質に近づけるために、放送局側の映像データに処理が施されたり、または、テレビなどの映像受信機器にそのような処理が内蔵されていたりします。
超解像技術について|液晶テレビ|REGZA:東芝
http://www.toshiba.co.jp/regza/detail/superresolution/resolution.html
誰にでもわかる「画像超解像」 | 画像センシング展2015
http://www.adcom-media.co.jp/sp-iss/2010/07/26/5894/
http://www.toshiba.co.jp/regza/detail/superresolution/resolution.html
誰にでもわかる「画像超解像」 | 画像センシング展2015
http://www.adcom-media.co.jp/sp-iss/2010/07/26/5894/
このぼやけた画像を復元する処理というのは、映像表示機器以外にも映像撮影機器(カメラ、スキャナ)などの分野で研究されていることも多いため、既にいろいろな研究事例があります。
パナソニック「超解像技術」の秘密に迫る - デジカメWatch
物理的なカメラレンズ特性によるぼやけ
また、カメラのレンズ特性によるぼやけのようなものでは、かなりくっきりと元の情報を復元できる仕組みが整いつつあります。機械的なぼかし(コンボリューション)の逆処理(デコンボリューション)
上記の超解像やカメラレンズ特性のぼやけ修正にも使われますが、特に、機械的なぼかし処理結果のぼやけた画像から、元の画像を復元するには、その逆処理(デコンボリユーション)を行うという考え方があります。ぼけた過程が不明なぼかしであれば、元の画像に対して作用する点拡がり関数(PSF:Point spread function)が未知のため、PSF を推測する必要がありますが、PSF が既知であれば、元の画像を復元することができます。
コンピュータビジョンのセカイ - 今そこにあるミライ (17) 超解像で高画質化処理を担当する「ボケ補正」 | マイナビニュース
http://news.mynavi.jp/series/computer_vision/017/
デコンボリューションフィルター(画像処理)
http://www.dbkids.co.jp/popimaging/IntroduceFunctions/DeconvolutionFilter.htm
ブラインド・デコンボリューション - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
点拡がり関数 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%82%B9%E6%8B%A1%E3%81%8C%E3%82%8A%E9%96%A2%E6%95%B0
デコンボリューション | 株式会社ソリューションシステムズ
http://www.solution-systems.com/pro09/
一般の画像処理系では、撮像時のノイズなどが混じるため、復元のための困難さが増しますが、機械的なぼかし処理であればノイズ成分を含まないため、復元のしやすさはそれよりも上でしょう。
ぼやける前の画像のパターンが推測できるケース
また、車のナンバーのような、元の情報のパターンが限定される場合には、撮影した画像がぼやけていたとしても、元の情報の全パターンを作成し、それらをぼかしたものと照合することで、元の情報だと考えられるものを推測する技術もあります。
画像ぼかして車ナンバー推定 大分の科捜研、逆転の発想:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASG7R6VB2G7RUTIL03L.html
http://www.asahi.com/articles/ASG7R6VB2G7RUTIL03L.html
その他
画像の専門家も「魔法のようだ」と驚愕! ピンぼけ写真を修復できるプログラムが開発される | ロケットニュース24
http://rocketnews24.com/2012/10/26/260658/
http://rocketnews24.com/2012/10/26/260658/
このように、ぼかしの種類によっては、元の情報を限りなく復元できてしまうこともあります。
対策
十分に情報を保護できるぼかしの処理方式がわからない場合には、ぼかし処理は使わず、十分な強さのモザイク処理や完全に不透明な塗りつぶし処理を行います。どのくらいが十分な強さなのかわからない場合や保護対象が非常に重要な情報の場合には、モザイクではなく、完全に不透明な色での塗りつぶしによる情報保護を行った方が良いでしょう。
また、どうしてもぼかしのような表現手法を使用する場合には、ぼかしを行う前に、それを適用する領域に不可逆な変形処理を適用することや元の情報が見えなくなるノイズを加えるなどの方法により、元の情報を復元しにくくする方法もあります。
モザイク処理を行う場合も同様に、モザイク処理を行う前に、それを適用する領域に不可逆な変形処理を適用することや強いノイズを加えるなどの方法により、元の情報を復元しにくくする方法もあります。
人はミスを犯すことを前提とした対策や、個人が認知できる情報の範囲には限界があることと、個人が想像するよりもテクノロジーはどんどん進化していることを踏まえた対策をしましょう。
確実に元の情報を消すには、元の情報を完全に失わせる「完全不透明色」による塗りつぶしが一番でしょう。
まとめ
ぼやけた画像から、元のぼやける前の画像を推測する技術は日々進歩しています。コンピュータのテクノロジーは、人間がそのまま見ただけでは分からない・理解できないことを、人間が理解できる形へと変換できる力があります。
不特定多数へ画像・映像情報を発信する場合には、このような点に気を付ける必要があります。
しかし、自分で撮影したピンボケ写真のようなものは、そのぼやけを画像処理によって復元するのが難しかったり出来なかったりするのに、情報を隠す目的でぼかした場合には、その情報を復元されてしまう可能性があるというのは、何とも嫌な話です。
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